東京四谷総鎮守│須賀神社

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三十六歌仙絵ご紹介(第6回)

12月に入り、いよいよ本年も終わりが近づいてまいりました。
今月は一陽来福御守の配布も21日の冬至にございます。
年末の準備も進めてまいりましょう。

三十六歌仙絵巻ご紹介、第6回となる今回は、大伴家持の句をご紹介いたします。

【作者】大伴家持(おおとものやかもち)
生:養老2年(718年) 没:延暦4年(785年)

 大伴家持は、大納言大伴旅人を父に生まれました。名家大伴一族の跡取りとして幼少の頃より学問、教養を学びます。そして他の歌人と同じく、生涯にわたり太宰府(九州)、伊勢、越中、平城京(京都)、因幡(鳥取)などと様々な土地に赴任しました。

 若い頃より柿本人麻呂・山部赤人などの宮廷歌人と交流を持ち、自らの才能を磨いてゆきます。さらに名家の跡取り息子である家持は、早くから上流階級の女性たちと歌を交換しておりました。また様々な任地での生活も創作の糧となり、多くの歌の背景となりました。

 万葉集には最多の473首が収められていることから、事実上編纂の中心人物とみられており、日本の文学に多大な影響を残した歌人です。

【掲載されている歌】
まきもくの
ひばらもいまだくもらねば
小松が原に
あは雪ぞふる

– 古今和歌集 巻第1 春歌上20–

巻向の檜原はまだ曇ってもいないのに、ここ小松が原には淡雪が降っている。
 巻向とは、奈良県桜井市にある巻向山のことで、初期の大和朝廷の遺跡があります。古来から政の地であることから、歌の中では巻向の檜原=大和朝廷との意味で使われています。
 この歌は、柿本人麻呂による歌が元になっております。

巻向之 桧原毛未 雲居者 子松之末由 沫雪流
柿本人麻呂歌集(万葉集巻十 2314)

巻向(まきもく)の 檜原(ひばら)もいまだ雲居ねば 小松が末(う)れゆ 沫雪流る

 雲のない空から粉雪が舞ってくる様を、神秘的な驚きをもって表現した美しい歌です。これは冬の歌ですが、家持の名で詠まれ改編された歌は春の歌に入っております。

 これは、「あは雪」の意味が雪の種類である「泡(沫)雪」であった時代から、溶けやすい春の「淡い雪」に変わっていったことに由来すると言われております。

 現代でもいまだに天気の表現にはたくさんの言葉がありますが、それぞれの使い方で、それが早春の日差しの中であったり、初冬の美しく晴れた中でのできごとであったりと印象がかなり変わりますね。

 日本語はなんと繊細であり、うつろいやすいものであることでしょう。