東京四谷総鎮守│須賀神社

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三十六歌仙絵ご紹介(第28回)

季節の移り変わりは早いもので、もう四月ですね。桜の花も咲き、新しい季節への期待が膨らみます。
さて、三十六歌仙絵巻ご紹介、第28回となる今回は、藤原興風の歌をご紹介いたします。

 

【作者】
藤原興風(ふじわらのおきかぜ)
生没年不詳(800年後半〜900年前半?)

 

 興風は藤原四家のひとつ、藤原京家の一族に生まれました。しかし曽祖父である藤原浜成が、重罪である謀反(氷上川継の乱)に関わったことで処罰を受けたため、京家の一族は政治権力の中心から外れる状態にありました。興風もその流れを受け、出世の波には乗れずに生涯官位は低いままでした。最終官位で正六位上と、三十六歌仙の名だたる貴族達と並ぶと厳しいもので、生没年もわからないほど記録に乏しい身分であったようです。
 その代わりに興風が名を残したのは和歌でした。仕えていた宇多天皇~醍醐天皇の時代の歌人として名を馳せ、宇多天皇の母、班子女王が催した寛平御時后宮歌合に招かれるなど宮廷歌人として活躍しました。
琴など管弦の才能にも大変優れていて、琴は師範の腕前であったとされます。
勅撰和歌集に計42首、「小倉百人一首」にも和歌が収録されています。

 

【掲載されている歌】

●同じ御時きさいの宮の歌合せのうた

 

契りけむ
心ぞつらきたなばたの
年にひとたび
あふはあふかは
– 古今和歌集 巻第四 秋歌178 –

 

なぜ約束をしたのだろう
一年に一度、七夕の日にしか逢えないとは
ひどいことではないか

 

 これは上記にある「寛平御時后宮歌合」で詠まれた歌です。七夕の伝説、織姫と牽牛の逢瀬の約束を題材にしています。
「契りけむ」の「けむ」は過去の推量に使われる助動詞で、すでに約束している行為になります。そして「あふかあふかは」は、「(一年に一度)『逢う』というのは『逢う』ことになるのか?(そう思わない)」という反語表現です。
 このことから、一見、二人に同情する歌と見えますが、その実は(恋人との)こんな約束があるものだろうか?私には辛すぎる。という感想であり、興風の恋愛観が伺えます。
伝説では仕事を怠けた二人への罰なので、一般的には同情するなどロマンチックに捉えがちですが、一歩引いた現実的目線で捉えたところが面白いですね。
 また詞書には「前年と同じ日に」「后の宮」とあり、昨年に続き二度目の御所での作品のようです。通常なら昇殿も許されない身分ですが、興風が最上級の歌合に何度も招かれるほどの歌の才を持つ人物であることが記されています。